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リスクが具体化して経済的損失が発生したとき、たとえば疾病により医療費や看護費の支出に迫られたとき、それまでの貯蓄を取り崩すとか、保険によって対処することができる(わが国では社会保険である医療保険と、それを補完する私保険としての医療保険が単独の商品ないし生命保険の特約として存在し、それでカバーできるが、公的医療保険制度が整備されていないアメリカでは民聞の医療保険あるいはそれに類似のマネジド・ケアと呼ばれる制度が中心である)。
疾病にかかった者が小さな子供であっても親の貯蓄や親のかけた保険によってカバーすることができる。 このような生活上のリスクに対する事前の経済的対処策をわれわれは「生活保障」と呼ぶこととしたい。
したがって、ここでの生活保障は「リスク保障」と言い換えることができる。 生活保障は個人が自らのため一人でもなしうるが、家族などのリスクを抱える者同士の集団による助け合いやリスクを引き受ける企業(保険会社)を媒介とした危険団体の形成を通しても可能である。
リスクをプールし、分担するという意味で「リスク・プーリング」あるいは「リスク・シェアリング」による生活保障であり集団的生活保障であるといえる。 歴史的にみて人類の集団的生活保障の最小単位の核が家族であったことは説明するまでもないであろう。
家族内の稼得能力のある者が子供や高齢者の生活リスクを保障し、家族内で要介護者がでた場合、介護可能な主婦などが介護にあたるという形でその生活保障が行われてきた。 このことは、核家族の増加や価値観の変化など家族の変容が著しいといわれる現代においても基本的には続いている(ただし、三世代家族の減少により家族内老親扶養が困難となり、高齢者は家族による生活保障の枠組みからはみ出しかけている)。
歴史上、家族以外にも集団による生活保障が重要な役割を果たしてきた。 たとえば中世においては、教会や封建領主すらある意味では人々の生活保障の役割を担ってきた。
現代の資本主義経済社会ではどうか。 私有財産制と自由かつ公正な競争を基調とする資本主義(市場)経済においては、個人および家族の自己責任が原則とされるが、個人や家族に加えて企業が従業員に対する企業福祉の提供者として従業員の生活保障に大きな機能を果たしている。

しかも、国民の生活保障は国家(公的部門)の基本的役割と認識され、いずれの国においても程度の差こそあれ、社会保障制度が確立している。 日本国憲法第25条も「すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する」と規定し、それを保障することが国家の義務であることを宣言している。
社会保障は、後述するが、高度に産業化が進み、核家族、単身者の増加にみられるような家族の変容が著しい現代社会において、とりわけ第二次大戦後、先進資本主義諸国で大きな発展をみている。 こうして、わが国をはじめ高度に発展した資本主義諸国では、生活保障はその主体別に捉えると、基礎となる国家による社会保障、企業による企業福祉、家計(ここでは単身者も含む)保障という生活保障の三本柱からなる階層構造が形成されている。
民間の保険会社は、各種リスクに対処するための保険(私保険)を家計(個人)や企業に提供することを通じて、家計(個人)や企業がそれぞれの生活保障リスクのうち保険可能なリスクをプールし分散する(リスク・シェアリング)ことをいわば仲介する機能を果たしている。 その意味で、保険業は社会保障制度を補完するものといえるが、とりわけ生命保険業は、死亡の際の遺族保障(死亡保障)、老後の生活保障(年金)、疾病・傷害・介護保障などを通じて国民の生活保障を担う生活保障産業としての存在意義を有している(同様の機能を果たすものとして、わが国の簡易保険のような公営の私保険もある。
また、農協共済や国民共済のような協同組合による共済もある。 ただ、本書では民間の保険のみを取り上げる)。
保険会社を通じたリスク・プーリングないしリスク・シェアリングは、成員(リスク)の数が少なく愛情や相互扶助に支えられた家族内のそれとは異なり、同種のリスクにさらされている多数の保険加入者(リスク)を合理的に計算された保険料を対価に集めることによって、個々の保険加入者の事故発生確率(保険金の期待値)が加入者全員の平均値に限りなく近づく(標準偏差または分散が減少する)という大数の法則を利用したものである。 社会保障は、各国でそれぞれの歴史的発展を遂げてきたが、第二次世界大戦後は先進資本主義国家において、産業労働者などの特定の者だけでなく国民各層を広く対象にした生活保障の施策体系として発展を遂げた。
1942年、ベパリッジ報告といわれる「社会保険および関連サービスに関する報告」が社会保険、公的扶助、公的医療サービス等によりイギリスから貧困をなくすことを目的とする計画を議会に提案し、これが大戦末期から戦後にかけて実施され、「ゆりかごから墓場まで」といわれるイギリス社会保障の形成に大きな役割を果たしたことはよく知られている。 わが国でも前述のように、戦後、憲法25条にもとづいて社会保障制度の体系が整えられていった。
1961年には、国民皆(医療)保険と国民皆年金が成立した。 前者は、国民がすべて何らかの公的医療保険に加入するというもので、全国民の公的医療保険(メディケイドとメディケア)への加入率が現在でもわずか25%というアメリカと対照的な制度となっている。
この点、イギリス、ドイツ、フランスのように公的医療保険(イギリスは税法式の国営医療制度であるが公的制度である点では同じ)への加入率がほぼ100%の西欧の国々の制度と同じである。 後者は、自営業者の年金である国民年金が創設され、それまでにあった共済年金(公務員等の年金)、厚生年金(民間被用者の年金)とあわせて国民皆年金となったものである。
その後、60年代には健康保険の給付水準の引き上げなどが実施され、また1973年には老人医療費支給制度(高齢者すなわち70歳以上の者と65歳以上の寝たきり状態の者の患者負担分を公費で肩代わりする制度)の導入など、社会保障の拡充が行われてきた。 しかし、その後の人口の高齢化と、オイルショック後の財政難から社会保障費を含む財政負担の増大に対する歯止めが求められ、1980年代に入ると社会保障見直しの議論が高まった。
何度かの大幅な年金制度改革が行われ、また83年3月には、公的負担による老人医療費支給制度も廃止され、代わって各医療保険制度の加入者のうち高齢者を横断的に対象とした老人保健制度が創設された。 だが、これらの社会保障制度の改革によっても、社会保障費はますます増大し、国民負担が極めて高い水準になることが深刻な問題となっている。

急速な高齢化によって、年金、医療、介護など社会保障費の急増が見込まれ、他方、経済の低成長により国民負担率の上昇が限界を超える可能性があるからである。 こうして、今わが国は、21世紀の本格的な高齢社会の到来を目前に控え、社会・経済構造や家族の機能、国民の価値観が急速に変化するなかで、年金、医療、福祉のあらゆる分野の社会保障システムの再構築が求められている。

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